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神戸地方裁判所姫路支部 昭和33年(タ)11号 判決

原告(反訴被告) 松崎浜子

被告(反訴原告) 松崎勝雄(いずれも仮名)

主文

一、被告(反訴原告)と原告(反訴被告)とを離婚する。

二、被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し金十万円を支払え。

三、原被告間の長女きくえの親権者を原告と定める。

被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し右きくえの扶養料として金七万五千円及び昭和三四年一二月末日から右きくえが満十才に達するまで毎月末毎に金二千五百円を満十一才から成年に達するまで毎月末毎に金四千円を支払え。

四、原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

五、被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

六、訴訟費用は本訴について生じたものはこれを三分し、その一を原告のその二を被告の各負担とし、反訴について生じたものは全部反訴原告の負担とする。

この判決は第二項については金二万五千円の担保を供するとき、第四項については金七万五千円の支払を命じた部分に限り金二万円の担保を供するときは仮りにこれを執行することができる。

事実

原告(反訴被告、以下単に原告と称す)は本訴につき、主文第一、二項同旨と被告(反訴原告、以下単に被告と称す)は原告に対し金五〇万円及び長女きくえが成年に達するまで毎月五千円宛を支払えとの判決と金員の支払を求める部分について担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は神戸市所在の野田高等女学校卒業後、西宮市の兵庫県栄養学園を卒業して栄養士となり、飾磨保健所に勤務中、昭和二九年三月四日訴外大石五郎の媒酌により被告と結婚し、松崎姓を名乗ることとして戸籍上の手続を了し、肩書原告方で暮すことになつた。

二、被告は満洲からの引揚者で京城工科高等学校機械科を卒業し、引揚後郷里の姉の許で世話になつていたが、その後右媒酌人の大石五郎が社長である姫路市の日本フエルト工業株式会社に入社し結婚当時同社の縮絨主任をしており、初婚であると申しており、原告も勿論初婚であつた。

三、結婚後一ケ月で原告は妊娠したが、三月で流産し、その後再び妊娠し、昭和三〇年七月一七日長女きくえを分娩した。

被告は非常に女性的な性質で結婚当時会社から一七、六〇〇円を貰つていたが、裸同様で原告家で生活一切の費用を負担し、その代り給料を原告に渡していたが、被告は何等原因がないのに、昭和二九年一二月二八日突然無断で家出した。当時原告はきくえを妊娠中であつた為、精神上非常な打撃を受け、被告の帰宅を待つていたが、正月が過ぎても帰らず、漸く翌三〇年一月二三日に一旦帰宅した。然し同年三月一四日再び無断で家出をし、その後は一度も帰宅しないのである。

四、原告はその後被告の所在を取調べたところ、被告は姫路市野里の日本フエルト工業株式会社の寄宿舎である交靖寮に居住していることが判明したが、被告は昭和三〇年一月及び二月に給料から金七千円宛を原告の方え入れたのみで、その後全然入金せず、原告から帰宅するように申しても帰えらず、同年七月一七日にきくえが生れたので、子供の生れたこと及びきくえと命名したことを知らせたが、寄付かず、姫路市内に居住しながら今日に至るも未だ顔を知らないのである。

右のような次第で、被告は悪意を以て原告を遺棄したものというべきである。

五、その後原告は被告について調査したところ、同人は初婚であるといいながら、原告と結婚前、姫路市八代六七〇番大村花子と原告同様入込んで結婚し、約半年位同居していたが、被告は自分は生理的に夫としての資格を欠くものであるとて遂に入籍手続をせず、破婚になり、同家を飛出している事実が判明したのである。又被告は原告と結婚前から鈴本一夫(昭和八年三月二一日生)という自分より年下の男といまわしい関係があつたとのことであり原告と結婚後も度々同人を原告方え連れ込み、洋服その他身廻品を拵えて着せて居り、家出後も同人と前記交靖寮で同室していることが判つたのである。

元来被告は同性愛的の偏向があり、前記鈴本との関係も、今尚継続しておるもので、或意味での外地における過去の悪風ならんも性的に一種の不能者で、原告と結婚前に大村と破婚になつた原因も夫としての生理的資格がないものであるというており、原告と結婚後も一緒に寝ながら、初めての肉体的の関係は三、四日後のことであり、それから一ケ月後は関係の度数が激減し、多い時でも月に三回位になり、関係する場合でも極端に接触を嫌つており自宅で入浴しているとき、原告が肩流しに這入ると慌てて手拭で局部を隠蔽するし、真夏でも就寝する際、寝捲の上にパンツを欠かしたことなく、その上夏蒲団を腰に捲付け、汗にまみれ衣類を濡しながら寝ているという状態で、勿論原告に局部に手を触れることを許さず、そして交接も瞬間的であり、その度数も月に二、三回程度で原告はその都度苦痛を味うのみで、夫婦の情愛が生じたことがない。

被告は所謂かたきん(片睾丸)で、自らも不具者であると申していたのである。

六、その後原告は直接又は人を介して媒酌人の大石に対し、被告の復帰方を求め、愛情を取戻すように進めて貰つたが、遂に帰宅せず、不可解にも清水社長が被告を偏愛して、当方の申出を受付けないようになつたのである。

それで原告は昭和三一年六月神戸家庭裁判所姫路支部に対し、被告を相手方として、離婚並に慰謝料等請求の家事調停の申立をしたのであるが、被告が強硬に反対し、同三二年九月二二日不調に帰したのである。

七、原告は栄養士の免許を持ち、父母と同居し、長女きくえは母に見て貰い、現在飾磨保健所に勤務しているが、原告は前叙の如く被告に悪意を以て遺棄されたものであり、又前記第五項記載の事由は婚姻を継続することが出来ない重大な事由があるときに該当するにより、請求趣旨記載のとおり、離婚及び慰謝料並にきくえの親権者指定及び同扶養料の請求を為すものである。

と述べ、被告の反訴請求に対し主文第五、六項同旨の判決を求め、答弁として、

被告主張の反訴請求原因事実中原告が長女きくえを妊娠し、つわりがきつかつたため、自分で被告の出勤準備のできなかつたことのあることは認めるが、その時は母が食事の仕度をしたものである。その余の事実はこれを否認する。

と述べ、

立証として、甲第一号ないし第一三号証を提出し、証人大村花子同大村美智子、同広田加寿子、同山本浩三、同松崎廉の各証言及び原告本人尋問の結果(第一回)を援用した。

被告訴訟代理人は本訴につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を、反訴につき、「原告と被告とを離婚する。長女きくえの親権者を原告と定める。反訴の訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を夫々求め、本訴の答弁並に反訴の請求原因として、

一、原告の主張事実中、被告が満洲からの引揚後姫路市の日本フエルト工業株式会社に勤務していること、昭和二九年三月四日、右会社の社長大石五郎の媒酌により原告と結婚し、松崎姓を名乗ることとして同月二二日その届出をし、又肩書原告方でその父母と共に同居したこと、同年一二月二八日原告方から家出したこと、同三〇年一月二三日一旦原告方に帰宅したが、同年三月一四日再び家出したことはいづれも認めるが、その余の主張事実はこれを争う(但し原告主張の日に長女きくえの出生したことは被告はこれを明に争わない)。

二、被告は日本フエルト工業株式会社の工員で、温順な青年であるが、原告及びその父母は被告が夜読書したり、勤務会社の仕事をする等に対しても、電気料金が嵩むと文句をいい、被告の親戚の者が来訪して一泊した際にも、損をしたといい、日常被告の食事分量を制限して、それ以上は食わさず、会社からの帰宅が僅か遅れると他所で食事をして来たのでないかといつて食事をさせず、冷飯弁当を持つて会社え行かせ、時にはそれが腐敗していたこともある。被告が多忙な会社務めで、心身共に疲れるのに、それを慰める方途を講じないのみか、却つて朝は被告より後に起き、朝食の準備を怠ること多く、会社えの出勤は時間ぎりぎりでよいという有様であつた。連日斯かる状態で被告は自己の身体を保持するため、己む得ず昭和二九年一二月二八日家を出たのである。

三、ところが、原告の方では全面的に被告の意見を聞き容れるというので、昭和三〇年一月二三日原告方え帰つたが、原告方の態度は依然として変らなかつたので、被告は同年三月一四日原告方を出てしまつたのである。

その間被告は原告の両親と別居し、原告を指導して円満な家庭を作らうと決意し、別居の話をつけたこともあるが、原告の方では別居を実行しなかつたのであつて、原告こそ正当の事由なく同居しないのであるから原告は被告を悪意を以つて遺棄したものというべきである。

四、なお、被告が原告方に同居中病気にかかつた際、原告方では被告が死んだ方がよいと云つたことがあり、又長女が出生した後には種付が済んだから最早被告は必要でないと他人に放言した由であつて、親子夫婦の愛情は全然なく、円満な家庭生活を営む意思のないことが明かであるので、斯かる事実関係は婚姻を継続し難い重大な事由に該当するものというべきであるから被告は民法第七七〇条第一項第二、五号所定の離婚事由あるものとして離婚の請求を為すと共に、長女きくえに対する親権については被告が事実上養子である点に鑑み原告の希望通り原告をその親権者と定められるべきものと信ずる。

と述べ、

立証として、証人大森栄一、同角田三郎、同大石五郎、同渋谷謙、同秋田晴夫の各証言及び被告本人尋問の結果を援用し、甲第一号ないし第六号証、第八号証、第一二号証、第一三号証の各成立を認めその余の甲号証は不知と述べた。

当裁判所は職権を以つて原告本人の再尋問を為した。

理由

被告が満洲から引揚げて来てから姫路市の日本フエルト工業株式会社に入社し、工員として勤務していること、昭和二九年三月四日右会社の社長大石五郎の媒酌により原告と結婚し、松崎姓を名乗ることとして同月二二日婚姻届をし、当初の間肩書原告方に原告の父母と共同生活をしたことは当事者間に争がない。而して原告が被告との同棲中妊娠し昭和三〇年七月一七日長女きくえを出生したことは原告の陳述(第一回)によつてこれを認めることができる。原告は被告は悪意を以つて原告を遺棄したものであると主張し、その事由として事実摘示(第三項及び第四項)のとおり述べるので考察しよう。成立につき争のない甲第一号ないし第五号証、第一三号証、証人広田加寿子の証言により成立の認められる甲第七号証に同証言証人松崎廉の証言並に原告の陳述(第一回)を綜合すれば、右原告の主張事実を認めることができる(被告が昭和二九年一二月二八日家出したこと、同三〇年一月二三日一旦帰宅したが同年三月一四日再び家出したことは被告の自認するところである)。右認定を動かす証拠はない。右の事実は他に特段の事由の認められない限り、被告は故意に原告の意思に反して夫婦共同生活の廃止即ち悪意に出でたる同居義務の不履行として、原告主張の悪意を以て遺棄したものに該当すると解するを相当とする。そこで被告主張の如き正当事由ないし反訴請求原因(第一)に述べるような事実の有無について考察する。被告の右主張事実中原告が妊娠してつわりがきつかつたため被告よりも早く起床してその出勤準備の出来なかつたことのあることは原告の争わないところであるが、その際は原告の母が食事の仕度をしていたことは原告の陳述(第一回)によつて認められるが故に、原告は被告に対する愛情の欠乏から妻としての勤めを怠つたものと認められない。その他被告の主張事実に添う証拠としては被告の陳述及び被告よりの伝聞と認められる証人大森栄一、同角田三郎の各証言より他になく、右陳述及び証言は証人松崎廉の証言及び原告の陳述に照らして信用できない。却つて証人山本浩三、同松崎廉の各証言及び原告の陳述(第一回)を綜合するときは、原告は一人娘で原告方は平屋建ではあるが四帖半、六帖、六帖、三帖半(台所)の四室及び風呂場があつて、住宅沸底の折柄原告夫婦が父母と同居することも左程支障があつたものと思えないのみならず、原告としては被告において真に別居を希望するならばその用意があつたことが認められるのに、別居が実現しなかつたのは寧ろ被告は別居してまで婚姻を維持する熱意がなかつたものと推測する外はない。被告の立証を以てしては右認定を動かすに足りない(従つて原告が被告の要求する別居を実現しなかつたのは原告が悪意を以て被告を遺棄したものであるとの被告の主張は言いがかりに過ぎないものと考える)。

思うに、被告が原告方から二回に亘り家出して遂に帰宅しない事情は前記甲第七号証証人大村花子、大村美智子、証人広田加寿子同松崎廉の各証言及び原告の陳述(第一回)を綜合して、被告は同性愛の偏向を有し、女性に対する欲望は恬淡で、原告との結婚前から勤務先の寄宿舎に年下の鈴本一夫(昭和八年三月二一日生)と同室し、同性愛的行為があり、原告との結婚後も三日にあげず同人を連れ帰り、普通の交際に見られないような態度を示したので、原告や原告の父がこれを注意したことが被告の気に入らなかつたこと及び原告は被告がかたきん(片睾丸)であると信じかたきんや同性愛の者は時に女性に対する欲望のないことを聞き、被告に対し適当な産婦人科医に診察して貰うよう進言したことが大に被告の気嫌を損じたものと推察されるのである。被告の陳述によつては右認定を動かすことはできない。他に右認定を動かすに足る証拠はない。而して原告及び原告の父の右注意ないし進言は悪意に出でたものとは到底考えられないから、そのことが被告の気に入らなかつたとしても被告が原告方を家出して今日に至るも復帰する意思のない本件においては先に説示したとおり被告は悪意を以て原告を遺棄したものと解さざるを得ない。

次に原告は被告との婚姻を継続し難い重大な事由があるとして事実欄第五項に摘示のとおり述べるので考察するに、被告と訴外鈴本一夫との同性愛的関係については前段認定のとおりであり、又証人大村花子、同大村美智子、同松崎廉の各証言及び原告及び被告の各陳述を綜合すれば、夫婦の交りは原告主張のように極めて尠いことが認められるが、被告が所謂かたきん(片睾丸)で不具者であるとの確証はない。而して弁論の全趣旨によれば原告としては被告の家出当時やがては生れ出づる子のためにも被告が飜意して帰宅することを望んでいたのであり、且つ被告とて性的不能者でない本件に於ては、前叙認定の肉体的要求の尠いことは未だ以て婚姻を継続し難い重大な事由となし難い。

然し既に判断したように被告は原告を悪意を以て遺棄したものであるから原告の離婚の請求はこの点において理由があり認容すべきである。

次に原告主張の慰謝料について考察するに、被告が前示認定の如く悪意を以て原告を遺棄したのであるから原告の蒙つた精神上の苦痛を慰謝すべきは当然であるが、その額は双方の学歴、職業及び収人並に前示離婚原因を彼是参酌して金一〇万円を以て相当と認める従つてその余の慰謝料の請求は失当として棄却すべきものである。

次に原告は原被告間の長女きくえの出生以来これを養育して今日に至つているのであり、今後も原告をして養育せしめることが望ましいことは弁論の全趣旨に徴し明白である。そしてそのためには母たる原告をその親権者とすることが相当と考えられるので、民法第八一九条第二項に基き原被告間の長女きくえの親権者を原告と定める。

更に原告は長女きくえの扶養料として本件訴状送達の時から同女の成年に達するまで毎月五千円宛の支払を求めるので考察する。元来扶養に関する処分は民法第八七七条ないし第八八〇条、家事審判法第九条第一項乙類第八号の家事審判事項に属するのであるが、人事訴訟法第一五条により離婚の訴に附随して申立てられた場合には地方裁判所はこれを定め得る権能を有すると解するを相当とする。或は同法第一五条第一項の文理上附随の申立事項を(1) 監護者の指定その他の処分と(2) 財産分与に関する処分とに限定する考え方もあるが、同条第二項は「前項の場合に於て、裁判所は当事者に対し子の引渡、金銭の支払、物の引渡その他の給付を命ずることを得」と規定しておるのであり、子に対する扶養の問題は子の監護者の指定又は職権を以てなすべき親権者の指定と表裏の関係にあるものでありいうなれば、監護者又は親権者の指定は形式を規定するものであり扶養に関する処分はその実質的基礎を規定するものである。子に対する扶養料はとりもなをさず子の監護の費用となるものである。従つて監護者又は親権者の指定と共に扶養に関する処分を為することは極めて至当である。若し之に反し、扶養料請求の申立が許されないとすれば、別に子から家庭裁判所に対しこれに関する審判の申立をせなければならないことになる。然し他方に於て訴訟中監護者又は親権者の指定もされない間に子から扶養料の請求を為すことは至難であり、又家庭裁判所においても訴訟中これが審判をなすことは事実上困難である。又離婚の判決(従つて監護者又は親権者の指定)が確定した上で、子から直に家庭裁判所にこれに関する審判の申立をなすことは当事者にとつて徒らに繁累と敵愾心とを増長することになり、又家庭裁判所が新にこの点につき審判手続を為すことは国家の訴訟経済上も適策でない。右の理由により当裁判所は離婚の判決に於て扶養に関する処分をも定め得るものと解する。

そこで、扶養料の額について考察するに、原告の陳述(第二回)によれば、原告は現に長女きくえの食費及び衣服費として一ケ月七、八千円程度を支出していることが認められ、将来は教育費の必要となつて来ることはいうまでもない。而して原告は栄養士の資格を有し、結婚当初は飾磨保健所に、現在は姫路市中央保健所に勤務し、月収一万五、六千円を得ていることは証人松崎廉及び原告の陳述(一回)によつて認められるが故に、差当り長女きくえの扶養に事欠くことはないと思われる。然し被告も日本フエルト工業株式会社の従業員として月収二万円以上あることは証人大石五郎の証言及び被告の陳述によつて認められるが故に、その地位、収入に応じて長女きくえの扶養料を分担せしめるを相当と認め、その額は本件訴状の被告に送達せられた月の翌月たる昭和三二年六月より満一〇才に達するまでは月額二、五〇〇円、一一才から成年に達するまでは月額四、〇〇〇円とし、毎月末日原告方に持参又は送金して支払わしめるを相当とする。(従つて既に本件判決言渡までに履行期の達した金額は主文第三項記載のとおり七五、〇〇〇円となる)。その余の請求は相当でないものと思料しこれを棄却する。

なおこの扶養料に関する処分は前記のとおり本質上家事審判事項であり、判決が確定しても、所謂既判力を有しないから、将来扶養権利者又は扶養義務者から事情の変更を理由として家庭裁判所に扶養関係の変更又は取消を申立てることを妨げるものでない。

次に被告の反訴請求について考察する。先づ被告の原告が被告を悪意を以て遺棄したことを事由とする主張については既に本訴で判断したように被告主張の如き事由が認められないから右請求は失当として棄却すべきである。次に被告のいわゆる婚姻を継続し難い事由として主張する事実についてもこれを認むべき何等の証拠なく、却つてこれ亦本訴の判断において述べたように、原告は当初は寧ろ被告が飜意して帰宅することを望んでいた関係にあつたのである。従つて被告の右請求も亦失当として棄却すべきものである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条仮執行の宣言につき同法第一九六条を夫々適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 庄田秀麿)

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